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大人も子どもも赤ちゃんも!
劇場空間に親しむ「吉祥寺ファミリーシアター」

「小さな頃からお芝居に親しんでほしい」「家族みんなで劇場に足を運んでほしい」

「吉祥寺シアター」がそんな思いを込めて企画した「吉祥寺ファミリーシアター」は、2018年に始まりました。5月に行われた第5弾(2020年に予定した第4弾は中止)を振り返りながら「吉祥寺シアター」の大川智史さんに、地域の人と劇場をつなげる取り組みについて伺いました。

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「吉祥寺ファミリーシアター2021」 よみしばい「注文の多い料理店」 © Koichi Wakui

−「吉祥寺ファミリーシアター」はどのように始められたプロジェクトでしたか?

 

2017年に吉祥寺シアターで初めて、今回の台本・演出を手掛けられている倉迫康史さんが主宰する劇団「Theatre Ort(シアター オルト)」が上演を行いました。「Theatre Ort」は「よみしばい」(読みきかせの気軽さと芝居の迫力を組み合わせた、幼児から大人まで楽しめる上演スタイル)が好評を得ていたのですが、当時子ども向けに演劇を見せる取り組みが当シアターでまだ始まっていなかったこともあって、プレイベントとして武蔵野市内の児童館や図書館などを「よみしばい」をしてまわり、当シアターでの上演につなげられたらと考えたのです。

2016年に4施設まわりましたが、お客さんの反応がとても良かったこともあって、「よみしばい」だけでなく演劇公演もセットにして立ち上げたのが最初の「吉祥寺ファミリーシアター」でした。劇場公演は未就学児が入場できないものが多かったので、小さなお子さんがいる家庭にも気兼ねなく楽しんでもらえる環境を作りたいという思いもありました。

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2019年の演劇公演「青い鳥~チルチルミチルの冒険~」
「あそぶ」プログラムでダンスを練習し、舞台に参加する子どもたち © Koichi Wakui

−舞台を「見る」だけでなく、一緒に遊んだり創作したりする参加型のプログラムもありますね。

 

学校の授業や習い事で学んだり、テレビで見たりする音楽やスポーツに比べると、演劇は日常で接する機会が少ないと思います。また、表現する人は舞台の向こう側にいて、芝居は見るものというようなイメージがあるかもしれませんが、僕は演劇やダンスの良いところは身一つで誰でも参加できるところだと思っています。

 

台本や演者以外にも、美術、照明、音楽など舞台にはさまざまな楽しみがあります。劇場がそうした「つくる」場所であることを知ってもらい、その楽しさを気軽に体験してもらえたらとも思っています。「吉祥寺ファミリーシアター」では「あそぶ」「つくる」プログラムなど、普段上がれない舞台の上で絵を描いたりバルーンで遊んだり、実際に演劇公演で使う舞台美術をみんなで作ったり、なるべく受け皿を広げ、誰でも気軽に参加できることを重視して企画を考えています。

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2018年の音楽劇「ピノッキオの冒険」 「つくる」プログラムで舞台セットを作る様子 © Kiyotane Hayashi

−今回はよみしばい「注文の多い料理店」、演劇公演「銀河鉄道の夜」と、宮沢賢治作品がテーマでした。

 

どちらも100年近く前のお話ですが、自分たちとは違う時代や場所、違った存在に、“声”や“身体”という実体を伴ったものとして出会える場所というのが、劇場空間だと思います。一説には劇場は古代ギリシャ時代から存在し、どこかであった事件を芝居という形で見せたり、神の声を広く知らせたりしていたと言われていて、当時、市民にとっては新しい情報に出会う場所だったと思うのです。

もちろん今、新しい情報という点ではデジタルで瞬時にさまざまなものを知ることができますが、実体のあるものに対面で出会う時、人はネット上などとは違った反応、例えばデジタル世界にはないプラスアルファな何かを感じることができたり、自分とは異なる価値観に対して拒否反応ではなく、葛藤を抱くことができるのではないか、そうした新しい考え方や価値との出会いの場となることが、劇場の果たせる役割なのではないかと思っています。

 

今回公演に合わせて、吉祥寺図書館で賢治の作品や評伝など関連図書の展示を行ってくださり、とてもありがたく思いました。本を読んでその世界を想像することはとても豊かな経験だと思いますし、舞台で声を通してその物語を聞いたり、身体を通して見たりすることでよりイメージが立体的になっていくと思います。

 

地域とのつながりでもう一つ、「銀河鉄道の夜」で舞台に置いた平均台がシーンごとにさまざまな情景を描くセットとして活躍したのですが、これは近くにある武蔵野市立「本宿小学校」と「第三小学校」にお願いし、快く貸し出していただきました。

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2021年の演劇公演『銀河鉄道の夜』。 © Koichi Wakui

−地域の人たちにとって、演劇やダンスなどの劇場体験が日々の暮らしの中に自然とあるというのはいいですね。

 

来場者の8割が武蔵野市の方で、前回以上に地域の方の来場が増えました。これまで何度か来てくださった方もいて、舞台を見慣れてきた子どもたちが徐々に増えてきたという実感があります。帰りがけに「今回も楽しかった」と感想を伝えてくれる子どもたちもいてうれしく思いました。お父さんの来場も目立ち、家族全員で出かけたりみんなで公演について話したり、そうした体験が気軽にできる場所が住んでいる地域にあるというのは街の豊かさにもつながるのではないかと考えています。

 

昨年はコロナ禍にあって公演中止やオンライン開催に切り替えざる得ない部分もありましたが、劇場は演劇やダンス作品を作る人、表現する人、観て楽しむ人がいてこそのもので、オンラインで全ては代替できないものだと改めて感じました。僕ら施設運営者は常に演者とお客さん、お客さん同士、アーティスト同士の出会いを媒介する者として、より良い出会いのため、その出会いの場を豊かなものにするために何が必要なのかを考え続けていくことが大事だと思っています。

演劇とはどのようなものなのか、劇場とはどのようなところでどんな楽しいことが待っているのか、これからの未来を担う人たちに出会いの機会を積極的に作っていくことは公共劇場の役割だと思いますし、見る側、つくる側が相互に関わり続けていくことで劇場や演劇という文化もさらに発展し、それが未来を作っていくことにつながっていくと思います。「吉祥寺シアター」が何か新しい体験ができる場所になっていくことで、吉祥寺イーストサイドの街の魅力も高めていくことができたらうれしいです。


(取材日 2021年6月3日)
 

PLOFILE:
公益財団法人 武蔵野文化事業団「吉祥寺シアター」

大川 智史 さん