
吉祥寺↔西荻窪「まち歩きガイドブック」
行政の枠を超えることで見えてきた街の魅力
2022年2月、武蔵野市と杉並区が連携し「吉祥寺↔西荻窪 まち歩きガイドブック」と題した冊子を制作、無料で配布を開始しました。
電車に乗ればわずか3分ほどの距離にある隣り合うふたつの街、吉祥寺と西荻窪。ガイドブックでは“ひと駅分のタウンハイキング”をコンセプトに、歩いてまわることで新たに出会える街の魅力的なスポットやお店などを紹介しています。吉祥寺の中でもとりわけ西荻窪に近いイーストサイドもさまざまな場所にスポットが当てられています。
実は今回のような、市と区の境界を超えた取り組みはこれまでほとんどなかったといいます。画期的な冊子が生まれた経緯などを武蔵野市観光機構の髙橋勉さん、杉並区産業振興センター観光係の橋本奈津希さんに伺いました。

表紙
−今回の企画はどのようなきっかけで始まったのですか?
髙橋さん:武蔵野市は駅でいうと吉祥寺、三鷹、武蔵境の3駅にまたがる東西に長いエリアです。それぞれ特徴を持つ3つの街が、観光の観点から行政区域をまたいで隣接する地域とつながりあえたらと良いのではと、以前から考えていました。
最初の接点は、数年前に中央線でつながる中野、杉並、吉祥寺エリアで駅を行き来しながら飲み歩きができる、バーボッピング企画を杉並区さんに提案したことでした。この企画の実現は叶いませんでしたが、それ以降も一緒に何かできればとずっと思っていました。
橋本さん:この冊子は高円寺・阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪の地域を観光視点から広く案内する「中央線あるあるPROJECT」という実行委員会がタイアップしています。同委員会では2020年に武蔵野市のほか、中野、世田谷、練馬各区にお住まいのさまざまな年代の方約200人を対象に「マイクロツーリズム」をテーマにした簡単なアンケート調査を行っており、武蔵野市に住む20〜30代の女性が最も「杉並エリアへの来街意欲が高い」という結果が出ていました。
これに加えてコロナ禍になって近隣を楽しみたいと考える人が増えてきたことから、こちらから髙橋さんに改めてお声がけして2021年の6月頃から冊子制作の企画が始動しました。
−−自治体の垣根を超えた取り組みは、これまであまり例がなかったと聞いています。
髙橋さん:そうですね。しかし、行政区域というのは街に遊びに来る人たちにとってあまり関係がありません。吉祥寺駅と西荻窪駅の間を歩いてみると二つの駅はそれほど遠くなく、散策途中に面白い場所がたくさんあると感じていたので、一緒に何か考えられたらという思いが強くありました。
橋本さん:私たちにとっても西荻窪エリアと一緒に吉祥寺エリアを取り上げられること、制作した冊子を杉並区内だけでなく吉祥寺エリアで配架していただけることに大きなメリットを感じていました。今回の企画を機に、双方で作っているほかのパンフレットも互いに置くことができるようになるなど、新たな連携が生まれました。

西荻窪駅周辺
−紙の冊子を作る上で、デザインなど工夫されたのはどのようなところですか?
橋本さん:近年はコロナ禍もあって、身近な場所を楽しみたいという思いからパンフレットを手に取る人が非常に増えていると感じていました。紙の冊子は気軽に散歩するきっかけづくりにも有効と思い、手に取りたくなるようなもの、保存版として長く使ってもらえるものを目指しました。
杉並区の事業として過去に「西荻まち歩きマップ」というものを制作しているのですが、そのイメージを武蔵野市観光機構さんと共有し、今回も同じ事業者さんに大まかなコンセプトとターゲット層を伝え、制作をお願いしました。今回の冊子は、「タウンハイキング」をキーワードに吉祥寺のお店でパンやデリを買って善福寺公園でピクニックをするコースを紹介するなど、少し遠回りしても楽しく歩けるような構成になっています。吉祥寺エリアでは、髙橋さんから提案をいただいたおすすめスポットも掲載しています。
イラストを入れ、地図も手書きにするなど手作り感のある見た目も好評で、杉並区内4駅に設置したラックに置いているのですが、配架するとすぐなくなってしまうほど多くの方に取っていただいています。

冊子2-3ページ ひと駅分のタウンハイキング
−−カフェやギャラリー、公園などイーストサイドもいろいろな場所が紹介されていますね。
髙橋さん:実は西荻窪とつながりを持つことで、イーストサイドというエリアをより盛り上げていけるのではという思いもありました。行政区域でマップを区切るのではなく今回の冊子のように吉祥寺と西荻窪までを一つのエリアと捉えることで、これまであまり紹介されてこなかった魅力が新たに立ち上がってくるような感じがしました。イーストサイドにはこの冊子で紹介できなかったお店が他にもたくさんあります。

吉祥寺イーストサイド
−皆さんの思いとシンクロするようなお話ですね。−一緒に取り組まれてみていかがでしたか?
髙橋さん:武蔵野市、三鷹市、小金井市といったような「市」同士の連携はこれまでもありましたが、「市と区をつなぐというのは画期的だね」という声を多くもらいました。繋がり合えたとことは今後に向けた大きな一歩になったと思います。
橋本さん:西荻窪エリアの冊子は今までも作ってきましたが、吉祥寺とのつながりを考える中で新しい魅力が見えてきたり、「テイクアウト」といった視点が加わることで、気がつかなかったスポットに巡りあえたことがとても新鮮でした。吉祥寺と合わせて掲載できたことでより雑誌のような柔らかい雰囲気になり、行政が手がける冊子としても、より手に取りやすくなったように思います。
−今後のコラボレーションにも期待が高まりますね。
橋本さん:吉祥寺と西荻窪に共通する良さ、またそれぞれに持つ街の良さを知ってもらうきっかけづくりができるよう、多くの人に冊子をPRしていきたいと思っています。杉並区は何かランドマークがあるというよりは、まち歩きを楽しむような場所だと思うので、互いに共通するコンテンツを軸に、今後も企画を考えていきたいです。
髙橋さん:今回完成した冊子を活用するような企画や、街なかをリアルに人が動いて楽しめるようなものができたらと思い描いています。各地域との連携を深めながら、観光に関する情報を発信し、街を盛り上げていきたいと思います。

PLOFILE:(左から)
一般社団法人 武蔵野市観光機構 事務局長 髙橋 勉 さん
杉並区産業振興センター 観光係 橋本 奈津希 さん
同 関根 悠実さん
(橋本さんと共に事業を担当)