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吉祥寺シアターについて
公益財団法人 武蔵野文化事業団「吉祥寺シアター」大川智史さん
現代演劇、ダンスを中心とする舞台芸術のための劇場として武蔵野市が建設、2005年5月21日にオープン。佐藤尚巳建築研究所による設計で、通常席数は189席。オリジナル企画のダンス公演やファミリー向けの上演イベント、ワークショップなど劇場主催の事業のほか、劇団とのタイアップ公演などを行う。開館時には吉祥寺にゆかりある方から、時代を彩るアーティストまで、バラエティ豊かな作品を上演した。(オープニングプログラム)トム・プロジェクトによる現代演劇「カラフト伯父さん」(作・演出:鄭義信)、KERA・MAP「ヤング・マーブル・ジャイアンツ」(作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ)、ダンスカンパニー「ニブロール」を率いる振付家・矢内原美邦が「演劇作品」を製作するために立ち上げた「ミクニヤナイハラプロジェクト」の『3年2組』。
「吉祥寺シアター」外観
一 「吉祥寺シアター」にはどのような特色がありますか?
現代演劇やダンス公演にある程度特化した劇場になっています。一般的に公共のホールは多目的に使われるものが多い中で、公立かつ単館としてこうしたコンセプトを打ち出している劇場はめずらしいのではないかと思います。
開館から数年はダンス公演の割合が比較的高く、それがシアターの個性として現れていたように思います。その後は、今に至るまで演劇公演が多い傾向が続いていますが、近年は劇場主催事業としてダンス公演を増やしています。言葉や物語がある演劇に比べると、コンテンポラリーダンスといったダンス舞踊公演は「難しそう」というイメージもあって、興行数としても、演劇の方が多いのが現状です。だからこそ公立の劇場の役割として、お客さんに対しても作り手に対してもいかに間口を広げていけるかということが重要だと感じています。次世代を担う若い方を紹介し、創作・上演の場を提供していけるよう、またアーティスト同士、お客さんとアーティストの間でも新たな出会いが生まれる、そのきっかけづくりができるよう意識して事業を手掛けています。
実は開館日当日、舞台開きとして最初に披露されたのも「ほうほう堂」という女性二人組のダンスユニットによるダンス作品でした。当初から劇場として、若いアーティストの作品や先進的な表現をきちんと取り入れていこうという志向があったのではないかと思いますし、その精神は今でも残すようにしています。
吉祥寺シアター舞台びらき・ほうほう堂『バブルミル』上演写真
一 このエリアに立つ劇場ならではの特徴もありますか?
コンパクトながら劇場の中の機能は非常に充実した造りになっています。建物外側のベンチや「都市回廊」は自由に往来ができる街にひらけたパブリックスペースになっていて、もともと「人の交流が生まれるような空間」というコンセプトだったのではないかと思います。お弁当や夏にアイスを食べている人がいたり(笑)、配達のお仕事の方が一休みしていたりと、人が出入りしたり溜まっていたりする場所である、それはとても素敵な光景だと思っています。「都市回廊」を生かして、通りすがりの人も自由に観ていただけるような上演を行ったこともありました。劇場はどうしても目的があって行く場所になりがちなので、いかに風通しの良い場所にしていくかということはいつも考えています。
2020年12月に上演したオリジナルダンス企画「PAP PA-LA PARK/ぱっぱらぱーく」(吉祥寺ダンスLAB. Vol.3)では、「もしも劇場が公園だったら?」をコンセプトに劇場内に公園を作り出しました。滑り台や階段を置き、普段は閉じている搬入口を開けて外と繋がっている状態にするなど、より開けた劇場空間となりました。劇場も公園と同様に「人が集まる場所である」と考え、公園と劇場というハイブリッドな形を提示することで、コロナ禍で生じたさまざまな変化・問題を捉え直すことができないかと試みました。
もともと「吉祥寺シアター」はかつてこの地域にあった「夜のまち」のイメージを払拭する目的で建てられた経緯があります。開館から15年で積み重なってきた劇場としての歴史と、それがもしも公園だったらという想像を掛け合わせて、この場所が劇場であると同時に、公園のように地域に開かれた、人々が集まるための場所であることを、改めて宣言するような企画だったと思います。
この企画は地域の方など子育て世代がメインターゲットの一つで、未就学児を連れて楽しく遊べることもテーマとしてありました。小さい時からより身近な場所で楽しんでいただけたらと思いますし、特に演劇やダンスに関心がなくても、近隣の方が気軽にここに来て楽しく遊ぶ中で、ダンスや身体表現に関心を持ったり、おもしろさに気づいたりしてもらえたらうれしいです。
吉祥寺ダンスLAB. vol.3『PAP PA-LA PARK/ぱっぱらぱーく』(撮影:金子愛帆)
一 「まち」との関わりはいかがでしょうか?
今回のコロナ禍で改めて、近隣の方たちとどうつながっていくか、「なかなか遠出できないけれど、住んでいる家の近くだったら」という方たちに何か届けられる場所であることがとても大切だと感じました。演劇というと、日本では例えば映画ほどメジャーではないので、興味を持ってもらえるような切り口のコンテンツ、例えばお子さん連れでもお越しいただきやすいプログラムを考えるほか、これまでも小学校や公共施設など外へ出て行ってお芝居やワークショップを行ってきましたが、普段劇場へ行かない人たちにも届けられるような活動を今後も並行してやっていきたいと思っています。劇場外での活動に参加した人が「楽しかったから次は吉祥寺シアターに行ってみよう」と感じていただけたらと思いますし、回を重ねながら、未来への種をまいていけたらと思っています。
ファミリー向けの公演では絵本を題材にした企画などもあるので、例えば公演に合わせて「吉祥寺美術館」で原画展をしたり、「吉祥寺図書館」で特集していただいたりするなど近くの施設と連携できると、地域の中で有機的に活動が繋がっていくのではないかと思っています。吉祥寺は、来街者と在住者が混在しているところも良いと思っているので、当シアターもより在住のお客さんを増やしていけると、何かそれを象徴できるような一層吉祥寺らしい施設になるのではと思います。
一 「吉祥寺シアター」として、これからの思いを聞かせてください。
劇場に行く、買い物をする、食事をする、そんな一連の出来事が「まちに来た体験」として人の中に残るのだと思います。そもそも、そうしたまちでの体験のつながりを積み重ねてきたことが、吉祥寺というまちを魅力的にしてきたと思うのです。
「吉祥寺シアター」は名前に「吉祥寺」とついているので、「劇場に行った」という体験が吉祥寺のまちそのものと非常に紐づけしやすいと思っています。例えば劇場で出会った人が、併設のカフェで一緒に開演を待ったり、終演後にそのまま街に出て感想を話し合ったりといったように、一つの体験が、まちの中での何か別の体験とつながっていくと増幅して、いわゆる化学反応みたいなものが起こり、吉祥寺のまちそのものがより強くその人の中に残っていくように思います。吉祥寺シアターだけで完結しないということも重要だと思っています。
イーストエリアは良い意味で統一感がなくて、「人間が見える」まちだと感じます。そんな自由さ、例えば演劇的なパレードやアートパフォーマンスを展開したり、オープンテラスや、お店の方が外で販売されたりと、活動そのものがもっと外の通りに出てきてオープンな空気がエリア全体に流れてくると、いろいろな人が立ち寄りやすい場所にもなるし、面白いかなと思います。劇場もまちの一部なので、公演を見に行く以外の時にどう関わってもらえるか、どんなふうに立ち寄ってもらえるかを考えていきたいと思っていますし、そういう意味でもまちの中にとけこんでいきたいという思いのもと、日々取り組んでいます。イーストエリアにおける文化的な観点でいえば、人の流れを作っていくことや新しい価値を広げていくための発信地になれたらと強く思います。それが「吉祥寺シアター」がこのエリアにある劇場としての役割なのではないかと思います。
(取材日 2021年1月28日)
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